第10回 次に来る自然

  田舎の道を歩いていると空家・廃屋・閉店した商店が目立つようになりました。今のところ人口の減少よりも都市部への人口流出や経済の中心が旧道から国道バイパス沿いに移っていることの影響が大きいようですが、いずれ本質的に人口は減少する予想になっています。耕作放棄された田畑も無視できません。新しいデータが見つからないのですが、おおざっぱに言うと耕作可能な面積が500万haのところ50万ha、つまり10%は放棄されているのではないかと思います。

 それでは放棄された農地、あるいはこれから出てくるであろう放棄された住宅地はこれからどうなっていくでしょうか。自然に戻って行くのでしょうか。その自然はどのような自然になるのでしょうか。

 これらの写真はハクビシンです。空き家に住み着き繁殖しています。江戸時代から日本にいたようですが、市街地でも見かけるようになったのは最近のことです。雑食性で生ごみをあさったり果物を食害する迷惑な害獣でもあります。

f:id:tanemaki_garden:20210402144717j:plain f:id:tanemaki_garden:20210402144757j:plain      下の写真は夜の公園に流星群を見に行ったところ駆け寄ってきたハクビシンの子供で、驚いたことに足にじゃれついてきました。上の写真とは別の個体です。誰かが餌付けしたのでしょう。よっぽど連れて帰ろうかと思いましたが、野生動物は子供の頃はかわいくても大人になると狂暴になって手に負えなくなるのが通常なので放置しました。

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 この猫は我家の軒下で生まれそのまま居ついた半野良の雌です。不妊手術してあります。性欲は無くなっても食欲と狩猟本能は旺盛で、ネズミも捕りますが今回はヒヨドリを捕獲して自慢げに帰ってきたところです。この後 羽毛を残して骨ごと食べてしまいました。なお、この猫は他の猫とは派手に大声をあげて縄張り争いをやりますが、ハクビシンが来ると静かに逃げます。

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 ところで鳥の世界も様子が変わっているような気がします。昔はどこにでもスズメがいました。最近は市街地では見かけなくなりました。スズメよりもヒヨドリキジバトなどが多くなったような気がします。メジロホオジロなども現れますし、ウグイスの声が学校の裏でも聞こえます。道路を歩くセキレイもよく見かけます。車が来ると逃げてまた道路に戻ってきます。多様な鳥が来てくれるのはうれしいのですが、わずかに残っていた森林が伐採されて仕方なく市街地にやってきたとすると悲しい。生ごみをあさるカラスや街頭に集団で集まって騒音と糞をまき散らすムクドリが市街地に増えていることは話題になります。なお、ツバメが人家に巣を作るのはカラスから雛を守るためだそうです。カラスの勢力拡大が鳥の世界の変化の要因である可能性はあると思います。

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 ニホンカモシカです。冬の間は山中の低いところにいて、夏になると高いところに移動するようです。この写真は12月中旬に長野県塩尻市みどり湖付近で撮影しました。全然逃げる様子がなく、私がリュックからカメラを取り出して構えるまで待っていてくれました。背景の土手は長野自動車道です。車の騒音が聞こえてくる場所です。特別天然記念物とされていますが、結構 たくましく生きていくのではないかと思いました。人間社会とうまく距離感を保てる器用な動物とトキやコウノトリのようになぜかうまくいかない不器用な生物で運命が分かれるようです。

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 草刈りをしていたらアオダイショウが現れました。この土地のヌシです。悠々と草むらに消えて行きました。最近は本当に少なくなりました。特に天敵はいないし、餌になるネズミはいるし、市街地で生きていても不思議はないのですが、おそらくこの体形では交通事故に合うことが多いのでしょう。自動車が少なくなれば、ヘビも次に来る自然の一員になると思います。

 江戸時代後期には日本の山々はほとんど禿げ山だったと聞きました。人々が木を燃料に使ってしまい、植林をしなかったからです。もっと昔では人口が少なかったでしょうから山々は森林に覆われていたはずです。里山が日本の原風景であるように言われていますが、里山が広がったのは植林が始まってからでしょうから、それほど昔のことではなかったのではないでしょうか。日本のように人口密度が高い国では手つかずの自然などほとんど無くて、自然だと思われているところでも人の手が入るので時代とともに変わっているのだと思います。人間が放棄した土地にはなんらかの自然が戻ります。しかし、それは以前と同じではないはずです。 

 今はほとんど読まれていないと思いますが、高橋和己という小説家がいました。自分たちは自然に郷愁を覚えるが、これからの人たちは都会に郷愁を感じるようになるだろうと言っています。つまり「夕焼け小焼けの赤とんぼ」など見たことが無い人は赤とんぼを懐かしく思うはずがないということです。これからはネットの世界が心象風景のベースになる人々が出てくるのでしょう。あと20年くらいたつと団塊の世代の方々が卒業されて人口は目に見えて減少するはずです。人間のいなくなった場所に自然が戻ってくるでしょう。人々は何を見て懐かしさを感じるのでしょうか。

 

 第9回 桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿のその後

 ツツジが咲きました。この写真は2021年4月4日です。昨年よりも2週間早く開花しました。

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 次の写真は昨年2020年4月19日です。上の写真と同じ木です。

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 花の数が異なることにお気づきと思います。違いは剪定の時期によるものです。上の写真の例では前年の5月28日に剪定していて、下の写真の例は前年の6月9日に剪定しています。ツツジの花芽形成は花が終わるとすぐに始まります。その時期より遅く切ると花芽を切り落としてしまうことになり花が咲かなくなります。園芸の本に書いてあることを実証できました。ツツジは品種によって開花時期が異なります。従って、品種ごとに剪定時期も異なります。下の写真の悪い例の場合、サツキツツジの開花終了を待っていっぺんに済ませようとしたのが間違いでした。

 まとめると、「ツツジは花が終わった後、花がらを切り落とすつもりで切り詰めるべし。」です。そうすれば翌年 たくさん咲いてくれます。

 なお、これらの木は小さく見えますが、いずれも樹齢30年を越えています。切り詰めないとジャングルになりますので切らないわけにいきません。園芸とはメンドクサイものです。

第8回 春になりました。2021年春分の日の出来事。

 細かく見ると季節の動きが微妙に違います。桜の開花が早くなっただけではありません。ハナカイドウが咲きました。以前は桜より遅く咲きましたが、昨年と今年はほぼ同時に開花しています。

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 積算温度と植物の反応で説明がつくのでしょうが、手もとにデータが無いし素人には解析は難しい。

 ソメイヨシノは以前は4月1日頃に満開になっていました。今年は7~10日早く開花しましたので4月1日にはあらかた散っているでしょう。これは積算温度で説明できそうです。ところが地域的に開花時期がややずれています。東京都区はその周辺部よりも1週間程度開花が早いのが通例でした。ヒートアイランド現象により都心部の気温が高めであることが原因と思われます。ところが今年は東京及びその周辺部はほぼ同時に開花しているようです。その理由がわかりません。

 我が家では水仙が昨年12月に咲き始めました。例年は1月下旬頃と記憶していますので1か月程度早いようです。季節の移り変わりは記憶ではなく細かく記録していこうと思います。

 水仙で思い出しましたが、我が家では水仙があちこちに増殖しています。しかし、水仙は種をほとんど作りません。どうやって増えているのでしょう?ヒガンバナも同様で、種を作らない球根植物が生育地域を拡大するメカニズムが不思議です。

 これらは私が植えたものではなく、約30年前に母が植えたものです。それがあちこちに飛び火するように増殖しています。写真には2種類の水仙が写っていますが、花弁が白い水仙は元は口紅水仙と言って中央のラッパ状の部分に赤い縁取りがありました。増殖するうちに先祖返りするらしく口紅がなくなってしまいました。黄色い水仙はラッパ水仙。奥の白い花はスノードロップです。

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 先祖返りと言えば、このヒアシンスも先祖返りでしょう。最初はやはり母が植えたと思います。それが増殖を繰り返し原種に近い形に変異しているようです。種をたくさん作るので、これが増えていくのは不思議でも何でもありません。

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 母が約30年前に植えた春蘭が咲いています。薄緑色のとても地味な花です。しかも、こちらを向いてくれないので写真が映えません。一部 鉢植えを試みました。生きてはいますが不調です。あまりいじってはいけない植物のようです。

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 旅先で拾ってきた種が少しずつ芽を出しています。左は花桃、右はトチノキです。見境なく発芽させてしまいました。大きくなる樹なので将来の移植場所は考慮必要です。

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 バラの種が発芽しました。第4回「虫たちとつきあう」でご紹介したピンク色の花をつけるバラです。親株が老化してきたので更新するつもりでいます。

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  野菜畑は秋冬作がそろそろおしまいです。カラシナが蕾をつけたのでこれをナバナとして食べてから抜いて、畑に有機物を入れて耕起します。今年は面倒な物は作らないつもりなのでジャガイモを植える予定です。

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  晴耕雨読という言葉がありますが、老眼が進んで読書が面倒になりました。晴耕雨ブログになりそうです。

第7回 畝を立てる方角は東西か南北か。野菜の話

 「火をおこすこと」とか「車輪とベアリング」を思いついた人は人類の文明の進歩に大きく貢献したと思います。それらに加えて、とても地味ですが「畝を立てること」を思いついた人もすごいと思います。

 おそらく最初の農耕は平らなところへ種を蒔き土をかぶせる作業から始まったのでしょう。畝を立てるとと明らかに植物の生育が良くなりますが、それを発見したことはすごいと思います。なぜなら、結果がすぐにはわからないからです。何週間か何か月かたった後に、畝を立てた場合と立てなかった場合を比較して初めて効果がわかります。これを発見するにはかなりの観察力が必要です。

 さて畝を立てると植物の生育が良くなる理由は排水性と日当たりです。園芸の本にはよく「排水の良い土地を選ぶ」とか「排水の良い土壌に植える」などの表現が出てきます。植物は水が足りなくなると根を伸ばす性質があるので、乾いた方が生育が良い場合があるのです。「日照りに不作なし」ということわざがあります。もちろん、水不足で枯れてしまう場所もあるでしょうが、水利の良い場所の収量が上がるので全体では豊作になることが多いという意味です。2点目の日当たりの効果は言うまでもありません。そこで表題の質問ですが、畝の方角は東西がいいか南北がいいかおわかりでしょうか?シンプルに日当たりの問題なので数学的に証明できそうですが、受験以来数学には縁がないので現実論で言うと答えは「どちらでも良い」です。(数学的に違う結果が出ると困る。)おそらく地域によって流儀があるように思われますが、皆様の地域では畝はどの方向を向いているでしょうか。

 鍬だけできれいに畝を立てるのは結構難しい。どうしても曲がってしまいます。

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 上の状態から1か月くらいたつと収穫できる状態になります。9月下旬に種まきしています。この時期は害虫が少ないので殺虫剤を使わなくてもなんとか収穫できます。

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 種まきから収穫期までに2回間引きしています。せっかく発芽した生き物を抜いてしまうので少し切ないですが、やらないとちゃんとした野菜はできません。「間引きできない症候群」の方が時々おられて、ジャングルのような畑を作っています。たぶん心優しい方だと思います。

 細かいノウハウを一つ。発芽時の野菜苗は小さいので間引きの時に隣の苗まで一緒に抜けてしまうとか、指先が不器用なので何本も一緒に抜いてしまうとか、苦労します。ハサミで子葉を切り落とせばよいのです。鼻毛ハサミが便利です。以下に私の野菜栽培カレンダーをお示しします。例年であれば無農薬で出来ます。

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 3月21日(春分の日)のカラシナです。ナバナのように食べることができます。この時期はまだ害虫がいませんので葉もきれいです。しかし、もうモンシロチョウが来て卵を産む動きをしていました。

 

    無農薬農法、減農薬農法についてもう少しご説明します。
 農薬が使われるようになったのは第2次大戦後です。戦前は農薬が無かったのです。つまり、無農薬農法をやるならばまず戦前の農業を習うところから始めればよいのです。例えば昔は白菜は冬に、キュウリは夏にしかありませんでした。それが「旬」です。白菜を「旬」ではない夏に作ろうとすれば害虫との壮烈な戦いに勝たなければなりません。キュウリを冬に作ろうとすれば、まず霜から守らなければなりませんし、べと病やうどんこ病をなんとかしないと枯れてしまいます。つまり農薬を使わないと収穫できないのです。今でも旬とそれ以外の季節では野菜に使用する農薬の量は全く違います。しかし、白菜もキュウリもスーパーに行けば一年中売っています。なぜなら消費者がそれを求めるからです。この状況が当たり前になってしまって「旬」を知らない人が多いのではないでしょうか。「旬」は常識になるべき知識だと思います。農薬の使用を少なくする方法は農業の基本中の基本である「作物を旬に作ること」と次に述べる「連作を避けること」を原則とすることです。

 「連作を避けること」つまり同じ土地に同じ作物を続けて作ってはいけないことの理由は、連作すると必ず病害虫が増えることにあります。特に厄介なのは目に見えない土壌中の菌や線虫です。連作すると収量が落ちる現象を「連作障害」と言います。ところで水稲には例外的に連作障害がありません。日本人は山地が多く平野が少ないこの国土で生きるために最適な作物を選択したことになります。ちなみに陸稲には連作障害があります。農業現場は「地域特産物」のブランド化を目標としている場合が多い。これに成功すれば高価格で安定した収入が得られます。ところが「地域特産物」とはその地域で連作を行っていることに他なりません。連作を可能とするために膨大な量の土壌殺菌剤、線虫剤を使用して土壌中の病害虫を防除しています。しかし、地域特産物は高品質の農産物を安定して得られるという意味で農家だけでなく流通業者も消費者も望んでいることですので今後も増え続けるでしょう。農業は産業ですから売れるものを作るのが当たり前です。だから地域特産物のブランド化を目標とするのは当然のことです。

 もう一つ厄介なのが消費者が見た目の美しさで農産物を選ぶ傾向があることです。「ミナミキイロアザミウマ」という害虫がいます。とても小さな虫でキュウリやナスの果実が小さい頃に表面をかじって傷をつけます。傷がついた果実はかさぶたがついた状態で大きくなりますので見た目が悪くなり、日本では商品価値がなくなります。この虫は東南アジア原産の侵入害虫です。ところが東南アジアでは害虫として問題にされていません。なぜなら「見た目」が悪くなるだけで「中味」は食べられるからです。このように見た目が悪くなる病害虫について「Cosmetic Pest」と言う英語があります。日本語は無いようです。野菜だけでなく果樹も「見た目」を守るために膨大な農薬が使われています。「見た目」が良いといい値がつくから当然です。しかし、私自身でもきれいな方を買うでしょうね。

 誤解して頂くと困りますが、私は無農薬信者でも有機農法信者でもありません。時々「天然物は安全」と主張する方がおられますが、とても非科学的です。農薬は「虫を殺す」「草を枯らす」ので「人間にも悪影響があるに違いない」とバイアスのかかった見方をされますが、「天然物なら安全」も同様にバイアスです。農薬は使用基準を守る、つまりラベルに書いてある通りに使用する限り安全です。なぜならラベルに書いてある通りに使うならば、人間には危険量の農薬は摂取されないからです。逆に言えば「ラベルに書いてないこと」に使用してはいけません。例には出しませんが、「飲んだら危険」「触ったら危険」な製品は身の回りにはたくさんあります。繰り返しますが農薬はラベルの通りに注意して使えば安全です。気持ち的に農薬が少ない方がいいという感覚は理解できないでもありません。その場合は旬のものを食べることをお勧めします。(「地域特産物」を避けることは難しいでしょう。スーパーの野菜売り場にある野菜は事実上ほとんどが「地域特産物で、毎年同じ場所で同じ作物を収穫したものです。)

 これまで貯めこんできた私の持ちネタは出し尽くしました。今後は新ネタができ次第書いていきます。

 

第6回 桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿

 「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」の根拠は何でしょう? 

 私は樹形のことを言っていると思っています。桜は放置しても美しい樹形に育ちます。むしろ切らない方が樹形が整うと言ってもよい。しかし、梅は放置すると徒長枝(夏枝)が伸びてほうきを逆さに立てような樹形になってしまいます。これでは花も実も付きが悪くなります。

 ちなみに「桜切る馬鹿」の根拠には諸説あり、桜は病気に弱く、枝を切るとそこから病原菌が入るので切ってはダメだとという説もあります。これも一理あります。なお、桜を諸事情で剪定しなければならない時もあるでしょう。その場合は晩秋~初冬(落葉~年末)に作業することをお勧めします。この時期は病原菌はほとんど活動しませんし、樹木も休眠期なので枝切のダメージを最小限にすることができます。

 園芸の本には「梅の徒長枝は切り落とすこと」と書いてあります。梅の花が終わると徒長枝が伸び出します。私は6月中旬頃(梅の収穫の直前の頃)に枝を切っています。早すぎると徒長枝が再び伸びますし、遅いと樹が弱るような気がします。「切り落とす時期は葉芽と花芽の区別がつく7月以降にせよ」と書いてある本もあります。残念ながら私には葉芽と花芽の区別がつきません。もちろん1月になれば誰でもわかりますが、前の年の夏では難しい。徒長枝を切り落としたら梅から枝が無くなってしまうと不安になりますが、普通はそうはなりません。しかし、私の「自己流」は普通ではない樹を扱っています。

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 左が夏まで徒長枝を切らず「逆さほうき」状態の梅の木、右は徒長枝を切り落とした後です。もう少しきれいに撮れるはずですので写真はいずれ交換します。言い訳させてもらうと、拙稿第1回と2回をご覧の方はお分かりの通り、これらの木は種から育てています。種から出た苗木の枝は全て徒長枝です。徒長枝ではない枝が出てくるまで4~5年かかりました。ことわざにも「桃栗3年柿8年 梅は酸い酸い13年」と言います。徒長枝には花も実もつきませんので、梅は実がなるまで年月がかかるのは理解できます。ただし、桃栗3年は早すぎるし、梅13年は遅すぎます。

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 左の写真に写っている梅の枝は全て徒長枝です。だからと言って全部切り落とすわけにはいきませんので、妥協して適当に切るしかありません。右の写真で棘のように出ている枝に花や実がつきます。これらを残してその上のまっすぐな枝は切り落とします。

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 この紅梅は樹齢30年以上の成木です。今年は昨年の気象条件が良かったらしく、きれいに咲いてくれました。下手くそな剪定だと思われる方が多いと思います。私も同感です。これにもやっぱり言い訳がありまして、梅の木らしくカッコつけて剪定すると、ヒヨドリが入り込んで花芽も葉芽も食べてしまうのです。従って鳥が入り込まないようにわざと樹冠が密になるように剪定しています。下の写真が問題のヒヨドリです。樹冠から飛び出した枝に芽がなくツルツルになっていることにお気づきと思います。

f:id:tanemaki_garden:20210308110350j:plain 昔 リンゴの皮や芯を置いて鳥を呼んでしまったのが失敗でした。ここ4~5年は餌を置いていませんが、鳥はそこまで記憶しているのでしょうか?メジロホオジロは来てもいいがヒヨドリは来てはダメと言っても鳥は言うことを聞いてくれません。自然との調和はかくのごとく難しい。

f:id:tanemaki_garden:20210308110913j:plain これはしだれ梅です。我ながらうまく行ったと思っている実例です。しだれ梅は徒長枝とそうでない枝の区別がつきません。なんとなく切ったら偶然成功しました。我家や隣家が写るのをできるだけ避けて写真を撮っていますのでいい写真が撮れません。

 剪定した方がいい樹は梅だけではありません。下の写真はハナカイドウです。

f:id:tanemaki_garden:20210308112258j:plain 下は2階から見下ろした写真です。

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 丹念に徒長枝を切り落としたら見事に咲いてくれるようになりました。ハナカイドウを植える方はたくさんおられますが、徒長枝を放置されている方がほとんどです。徒長枝を見分けるのは難しくありませんし、6~7月に1~2回切ればればよいので、大した手間ではありません。剪定されることをお勧めします。

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 ツツジとサツキは剪定時期が難しい樹です。花芽が6月にはできてしまいますので。それ以降に切ると花芽を切り落とすことになって花が無くなってしまいます。つまり花が終わったら直ちに作業しなければなりません。お正月の前に植木屋さんを呼んで庭をきれいにする方が多いと思います。その時期にツツジを切ってはいけません。写真は失敗例です。本当はもっと樹全体に花がつくのです。

 樹木の花芽形成の時期は決まっておりますので、剪定もそれに合わせて行う必要があります。

 

 次回は「畝を立てる方角は東西か南北か?」 野菜の話です。

 

第4回 虫たちと付き合う

 バラの花の中に虫たちの世界ができています。

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 クマンバチが来襲して虫たちを蹴散らしてしまいました。

 f:id:tanemaki_garden:20210304091456j:plain コガネムシ(たぶんヒラタアオコガネムシ)がヒマワリのめしべをむさぼり食っています。こうなると害虫です。

 これを面白いと見るか気持ち悪いと思うかで園芸の楽しみ方が変わってきます。私はできるだけ楽しみたいのですが、やむを得ず虫たちを排除しなければならない場合もあります。それは次回にご説明します。 

 最近はスズメバチと見ると退治しなければならないという風潮です。確かに外来種のキイロスズメバチなどは攻撃性が高く人家の周囲に巣があるのは危険でしょう。しかし、スズメバチは本来は肉食性で虫を食べて生きていますので主に害虫を減らすのに役立っています。森の中にひっそりと暮らすスズメバチまで追っかけて行って殺す必要はないと思います。下の写真はコガタスズメバチが巣を作り始めたところです。コガタスズメバチはおとなしい種族なので巣をいじったりしなければ攻撃してきません。
 スズメバチは女王蜂のみが冬を越します。そして春にたった一匹で巣作りを始め夏が過ぎるころには数百匹のコロニーを作ります。そして冬が来るとオス蜂もハタラキ蜂も死に絶えて女王蜂はまた一匹だけで冬を越すという中々に壮絶な生活環を持っています。

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 先ほどのトックリ型の巣が夏にはボール型に成長します。さすがに近寄れないので巣の周りは草ぼうぼうになってしまいましたが仕方がない。この蜂がいた年はお陰様で害虫が少なくて済みました。また来て欲しいのですがわが庭に住み着いたのは1年だけでした。なお、この巣は1年だけの使い捨てです。

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 梅にはアブラムシの防除が必須です。5月中旬から7月上旬まで油断すると新葉、新芽がアブラムシの塊になってしまい、葉はすべて縮れてしまいます。歴史的名園の梅に縮れている葉を見たことがありません。開園前に殺虫剤散布を何度か行っているはずです。テントウムシが食べてくれますが追いつきません。この写真に3匹のテントウムシが写っています。模様が全然違いますが種類は同じナミテントウです。テントウムシを保護するために殺虫剤をまくのはあきらめました。アブラムシで木の形は不恰好になりますが枯れることは通常はありません。

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 11月中旬 もうすぐ霜が降りる頃 野の花もほとんど無いので残った菊の花に蝶が群がってきます。秋の蝶は俳句の季語ですが、寂しげな句が多いです。

      行く秋の日差しを求め秋の蝶 小川玉泉

 ここ数年 蜜蜂の減少が大きな話題になっています。殺虫剤、特にネオニコチノイド系殺虫剤の影響が疑われています。確かに強力に効くので蜂にかからないように、開花期には散布しない、蜂は午前中に活動するので散布を午後にするとか、蜂を殺さない工夫は必要と思います。しかし、蜂の減少の大きな原因は蜜源植物が明らかに減少していることであるとの説の方が有力であると私は考えています。微力ながら蜜源になるような植物をせっせと植えています。私が見たところ白や黄色の花に寄って来る傾向があるように思われますが、どうでしょうか?この白い花は最近 雑草地に増えてきた野ばらです。トゲが多いため駆除しようとすると手間のかかる雑木です。しかし、蜂が好んで寄ってくる傾向があり、保護したいのですが手が傷だらけになる。

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 私の庭では落ち葉の大部分は放置しています。しかし、いつの間にか無くなります。ダンゴムシ、ナメクジ、ミミズなどが食べてしまうからです。落ち葉はゴミではありません。

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 上の写真は植木鉢をどけたところです。ダンゴムシがあわてて逃げようとしています。ナメクジもいます。彼らは落ち葉だけではなく、生きた植物も食べることがあるので害虫とみなされることもありますが、貴重な掃除屋でもあります。これらの虫が嫌いな方は、本稿の自己流園芸術には残念ながら向いていません。

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 この写真はツゲがメイガの幼虫に食べられて葉がなくなってしまったところです。真夏に1週間油断しただけでこの被害です。常緑樹なのでなかなか葉が再生しません。こうなると復活するのに2年くらいかかります。この虫は毎年は発生しません。真夏から初秋にかけて突発的に出るので油断してはいけません。次回は害虫防除の話です。

 私は虫には詳しくないので昆虫名が不正確であることはご容赦ください。


 

第5回 虫たちと付き合う その2 害虫を管理する。

 害虫防除は英語でPest Controlです。あるいはPest Managementと言ったりします。病害虫雑草を含めるとPlant Protectionと言います。日本語の「防除」は「殺す、除去する」というニュアンスが強いように思えますが、英語のControlやManagementは「管理する、抑制する」というふうに聞こえます。近年 Integrated Pest Management (IPM)という考え方が出てきました。要するに農薬だけに頼るのではなく天敵なども活用して病害虫を抑え込もうという考え方です。病害虫雑草が要防除水準(これ以上発生すると被害が出て収穫量・収穫物品質に影響するレベルの発生密度)にならない限り農薬は使用しないという考え方も含まれます。しかし、これには毎日 農園を見回っていなければならず、大変手間がかかる方法であるとも言えます。

 日本の農業現場には「防除暦」があります。農薬の種類と使用時期を記載したカレンダーで農協や行政などが作っています。これに沿って農薬を使えば病害虫雑草をほぼ完全に抑え込むことができます。この問題点は病害虫雑草が発生していなくても農薬を使用することがあるということです。病害虫雑草による被害が出てしまうと農協や行政の指導責任が問われてしまうので、そうならないように若干 過剰防衛になっている傾向があると思います。毎日農園を見回る必要が無く、防除暦を見て準備と作業ができるので、散布回数は増えるかもしれませんが、農家にとってはむしろ楽な方法です。

 病害虫雑草の発生は毎年大きく変化します。しかし、ある程度は発生時期が決まっています。そこで私はわが庭のミニマム防除暦を作っています。言わばIPMと防除暦的考え方の中間です。

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 梅につくモモコフキアブラムシです。アブラムシとしては大型で殺虫剤も効きにくい。天敵のテントウムシが食べていますがアブラムシの繁殖力はすさまじく追いつきません。テントウムシはアブラムシの増加よりやや遅れて出現しますので、殺虫剤の処理をアブラムシの発生初期4月末~5月上旬に行えばテントウムシへの影響は最小限で済みます。我が家ではこの虫については殺虫剤散布が必須と考えています。

  ミニマム防除暦では年3回の殺虫剤散布を行います。散布する樹種を限定していて、庭全体一斉に殺虫剤をまくことはしません。
1回目 4月下旬 梅にアブラムシ用殺虫剤散布  
2回目 5月中旬 梅にアブラムシ用殺虫剤散布
 要するに連休の前と後に梅にアブラムシ剤を散布します。

3回目 6月中旬 椿、つつじ、つげに殺虫剤散布します。 椿にはチャドクガが、つつじにはハバチ(チュウレンジハバチ)が、つげにはツゲノメイガ又はハマキムシが出ます。チャドクガは毒針を持っていて危険ですし、これらの害虫防除に失敗すると木が丸坊主になってしまいます。この時期の散布でツツジのグンバイムシも同時防除できます。さざんか、さつきも同様 です。
 普通の年であればこの3回で害虫防除は終了です。

 ミニマム防除に追加して行う補正散布
 害虫の発生パターンは年によって大きく変化します。多発生の場合は上記のミニマム散布だけでは害虫の発生を抑えきれません。園内をよく見まわって害虫が多い場合は殺虫剤を追加散布します。この時も害虫が発生している樹種に限定して散布し、庭全体に一斉にかけることはしません。
6月  梅のアブラムシ防除  年によってはアブラムシが大発生します。
7~9月 さつき、つつじのハバチ防除 椿、さざんかのチャドクガ防除 つげのメイガ防除
これらは毎年発生するものではありません。しかし、油断するとひどいことになります。 夏の暑い時期 油断すると1週間で大事な木々の葉がなくなるということもあります。

f:id:tanemaki_garden:20210304093621j:plain つげの苗木の葉がメイガに全て食べられました。8月下旬にほんの1週間ほど目を離した隙にやられました。真夏から秋にかけて突発的に害虫が出るので油断できません。

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 以上のように回数限定、散布目標限定で最小限になるように殺虫剤を使っていますが、それでも我が家から秋の虫の声が消えました。コオロギなどバッタの仲間は年1回しか発生しません。どこかで生活環が切れるといなくなってしまいます。残念です。

殺虫剤の選定について
 4月~5月のアブラムシ防除にはネオニコチノイド系殺虫剤を使っています。アドマイヤ、モスピランなど数種類あります。殺虫力に偏りがあり、チョウ目(イモムシ・ケムシの類)への効果はそれほど強くありませんが、アブラムシ類へはよく効きます。最近 ミツバチに効きすぎると批判を浴びているのがこれです。しかし、臭いがほとんど無いので住宅地では使いやすい。蜂に強く効くのは事実なので、蜂を殺さないように花が咲いている時期は使わないなどの配慮は必要です。
 6月以降は有機リン系殺虫剤を使っています。古くからあるタイプでいろいろな虫に効きます。スミチオン、オルトランなど数種類あります。欠点は木の種類によっては新葉が黄化するなどの薬害がでることです。特に高温時は桜などに要注意です。また臭いが強いので、私は早朝まだ近所の皆様が寝ているうちに散布することにしています。
 ピレスロイド系(除虫菊成分の誘導体)殺虫剤も広く使われています。家庭園芸用の殺虫剤の成分を見るとこれが多いようです。速効性で幅広くいろいろな虫に効きます。欠点は浸透移行性がなく、葉の裏まで散布しないと隠れている虫に効かないことがあること。それにとても強力な殺虫剤なので虫の天敵まで殺してしまい、しばしば繁殖力の強い虫が大発生することです。このように殺虫剤が原因で虫が大発生する本末転倒な現象を専門用語でリサージェンス(resurgence)と言います。我家でも一度梅のアブラムシ防除に使ったところ普段はみかけないカイガラムシが木が枯れるかと心配するほど大発生しました。ピレスロイド系はカイガラムシにはほとんど効きません。逆にカイガラムシの天敵である寄生蜂を殺してしまったのでリサージェンスが発生したと考えています。ちなみにカイガラムシに効果がある殺虫剤は少なく、ほとんど劇物なので家庭では入手困難です。冬季のマシン油乳剤散布くらいしか打つ手がありません。鉢植えや家庭菜園くらいならピレスロイド系を使っても問題ありませんが広い範囲に散布するのは避けた方が良いように思います。なお、プロ農家はだいたい10日おきに農薬散布しますので、リサージェンスした害虫もまた殺虫剤で抑え込んでいるわけです。

防除が難しい害虫  
 カミキリムシ類 幼虫が樹幹に入り込んで木の中身を食べます。庭のモミジが急に元気がなくなって、夏なのに紅葉したりして枯れてしまうのはこの虫が原因である場合が多い。プロの農家はほぼ10日おきに殺虫剤散布するので防除できますが、アマチュアはそんなことはできないので、事実上 防除不可能になります。木の幹がある程度太くなると侵入してきます。対策無しなのでモミジは寿命の短い木とあきらめた方がいいと思っています。 
 コガネムシ類 成虫が葉を食害して穴だらけにします。体が大きな昆虫なので、殺虫剤が直接当たらないと死にません。殺虫剤をかけても逃げるだけで戻ってくることもあります。これで木が枯れてしまうことはないので特に防除はしません。この虫のおかげで夏頃には我家の梅の葉は穴だらけになっています。


 無農薬について
 無農薬で農業ができると主張する方々がおられます。私は無農薬農法を否定しません。無農薬で農産物が得られる年もあるだろうと思います。しかし、何度も申し上げているように病害虫雑草の発生は年によって大きく変動します。ある年にうまくいっても次の年に成功するとは限りません。農業は食料を生産するという大切な産業です。それが運に左右されてはいけないと思います。趣味であれば構いません。

 私も秋冬作の葉物野菜(大根、小松菜など)を無農薬で作っています。春夏作で葉物野菜を作るのはお勧めしません。5~7日おきに殺虫剤をまかないと害虫に全て食べられると思います。害虫の少ない秋冬なら多少食われますが、なんとか収穫できます。春夏作でも枝豆やトマトなら半分くらいは害虫の餌になりますが収穫できると思います。ジャガイモやサツマイモも可能でしょう。無農薬で可能な作物とその栽培時期は相当限定されると思います。

 樹木の場合 害虫に大きな被害を受けると回復するのに2年以上かかる場合があるし、場合によっては枯死します。そんな経験をしていますので、殺虫剤でコオロギなど害虫以外の虫がいなくなることは悲しいですが最小限の殺虫剤散布は行っています。

 農薬の安全性証明のメカニズムについては長くなるのでやめます。私の見解ですが、作物への農薬残留の安全性はとても精緻に立証されていてほとんど心配ないと考えています。しかし、農薬を散布する人=作業者は作物残留などよりもはるかに多量の農薬を浴びるわけですが、自分の身は自分で守る原則なので、若干心配しなければいけないと思います。世界的にグリホサートの発がん性が話題になっていますが、これは作業者安全の問題です。農産物には極微量しか残らないので問題ありません。作業者に対する安全性と農産物の安全性とは次元の違う別の話ですので混同してはいけないと思います。農薬の使用が多いのは夏です。その時期に完全防備で作業したら熱中症で倒れてしまいます。作業者の安全に100点満点の回答ができないジレンマがあります。

 今回は理屈っぽくて申し訳ありません。害虫及びその被害の写真はおいおい追加します。また、昆虫の名前に詳しくないことはご容赦ください。次回は「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」 樹木の剪定の話です。