2年前のブログの再放送 百万年の船 最終回 彼らはどうして地球へ。そしてエピローグと時の終わり

2022-03-09

第5回 彼らはどうして地球へ。そしてエピローグ

ファーストコンタクト 地球外知的生命体 恒星間飛行

 庭いじりの最中に降ってきた妄想の話もそろそろ終わりです。

 当初は積極的に地球人と接触していたマルコ人は次第に慎重になり、ついには地球を去った。彼らは来訪の目的を語ることはなかったのであるが、筋立てを無視して説明することにしよう。

 物体は光の速度を超えることはできない。しかし、電磁波は少なくとも光の速度で進むことができる。もし、知的生命体の肉体、知識、意識を信号化して電磁波で送ることができ、それを受信した装置がそれらを再構成することができれば、その知的生命体は光の速度で移動したことと同じことになる。これがマルコ人の使命だった。岩の船は受信機であり、マルコ人はそのオペレーターだったのだ。

 さらにマルコ人が地球人に明かさなかった重要な秘密がある。それは彼ら自身が遺伝子操作によって作り出された知的生命体だったということだ。宇宙のどこかで超文明を作り出した宇宙人がほとんど無限の寿命を持つ群生型生物に知性を与え宇宙に送り出したのだ。
 マルコ人は地球の周回軌道上で超文明の主たる宇宙人を再構成することはなかった。なぜならマルコ人だけでも地球人の対応力はほぼ限界であり、これ以上のカルチャーショックには地球人は耐えられないだろうと判断したからだ。地球人は異文化と出合うとまず異文化を理解しようとし協調しようとするが、一方では異文化を排除しようとする。特に対応力を超えた場合、地球人は相手を排除しようとするだろう。それは歴史上高い頻度で起こっていることをマルコ人は学んでいた。

 マルコ人は地球人には黙って地球の珊瑚虫に遺伝子操作で知性を与えていた。珊瑚は各個体がルーズにリンクしており群生型生物に進化する可能性があると考えたらしい。知性を持つ珊瑚はグレートバリアリーフ近くの深海に潜み、ゆっくりと進化を開始した。地球の群生型生物が広域に勢力を広げるのは1億年の未来になる。

 マルコ人を送り出した超文明の主は寄生型生物だった。彼らは常に有用な宿主を求めている。地球上の生物の中から宿主を選択することも彼らの任務だった。しかし、結局 最適な宿主は見つからなかった。人類にしても運動能力、環境適応能力、寿命の長さが不足していて、さらに知性を持っていることが邪魔になった。他の生物では寿命が短すぎた。かと言って亀では寿命は長いが身体能力が物足りない。

 前回のマルコ人との対話の中で彼らはAIに意識を持たせることは危険であると述べている。それはAIの危険性を知らない地球人への誠意をこめたアドバイスであった。実際はマルコ人を送り出した超文明はAIと生物が融合した世界だった。超文明の主は寄生型生物だったが、彼らは一つの宿主に複数の寄生型生物が寄生して情報・記憶を共有して伝達できた。それと同様に宿主に寄生型生物とAIが同時に寄生しても違和感はなかったのだ。生物は生き延びることを望み、AIはシャットダウンされることを恐れる。この意味で両者の願望は一致していた。彼らが恒星間飛行を行い新たな居住地を求めるのは、彼らが生まれた恒星系が滅びた後でも種が存続できる道を模索していたと考えられる。

 

 エピローグ

 岩の船は次の目的地へ旅立った。一部のマルコ人は土星の衛星タイタンに残りコロニー都市を建設した。そのコロニー都市でマルコ人は母星の超文明から送られてきたデータから数種の宇宙人を再構成している。何世紀もかけてコロニー都市は数種の宇宙人が共同して生活する宇宙都市として発展した。地球人がタイタンを訪問するのは200年以上の未来になるが、その時地球人は様々なタイプの宇宙人と出会うことになった。

 さらに百万年ほどの未来、銀河系の渦巻きから少し離れた宇宙空間に、球状星団に混じって、1隻の岩の船が浮かんでいた。その大きさは地球に飛来した船の約3倍もある巨大なものだった。この巨大船には3群のマルコ人と意識を持ち成長できる能力を持ったAIが乗っていた。その周りに8隻の岩の船が集結した。それぞれ銀河系をめぐり数々の知的生命体と遭遇してきた船だった。船団は船の間をブリッジで結んで固定し、船同士の記憶の共有化を行おうとしていた。その膨大な作業には約千年を要した。船団の姿は1隻を中心に8隻が等間隔に取り巻いていて、ちょうど大日如来を中心に8人の如来が円状に取り囲む胎蔵界曼荼羅の八葉院に似ていた。最終的に船団は一つの精神を持つ一つの個体となった。知的生命体が生まれた星はまだまだある。そして再び 8隻の岩の船はブリッジを切り離し、同じ記憶を持つ8つの個体となって、それぞれ銀河系の渦巻きの中へ散っていった。 

 50億年後 太陽は赤色巨星となり、水星と金星を飲み込み、地球の軌道のすぐそばまで膨張すると言われている。その時まだ人類が生存しているとすれば、移住先の候補は木星あるいは土星の衛星になるかもしれない。その時、土星の衛星タイタンの宇宙人コロニー都市が、これももし存続していたとすればだが、人類の生存の足掛かりとなるかもしれない。しかし、この未来はあまりにも遠すぎる。

 10万年を越える恒星間飛行においては岩の船はわずかな機能を残してほぼ眠っている。その深い眠りの中で岩の船は「地球の食事はおいしかったなあ」と時々 夢を見たのだ。

 

 2nd エピローグ 手のひらの上のビッグバン

 宇宙はビッグバンから始まったのであるが、その前は時間も空間も物質も無かったそうである。ということは今 この私の手のひらの上でビッグバンが起きてもおかしくないということにならないだろうか。そうなったら私だけでなく太陽系が吹っ飛び、さらに新しい宇宙が古い宇宙を侵食して広がって行くことになる。

 ビッグバンは実は今もどこかで起こっているのかもしれない。しかし、それが数億光年先で起こっていれば、我々がそれを知るのは数億年の未来になる。だから、我々は他のビッグバンを知らないのである。

 この宇宙ではやがてエントロピーが拡大してエネルギーが均一になる。つまり、全ての星はエネルギーを使い果たし、冷たい星とブラックホールが漂う暗い空間になるだろう。般若心経を読んでいる時、その中ほどでそんな遠い未来の漆黒の闇が行間に見えたことがある。

無眼界 乃至 無意識界
(目に見える世界も無く、内面の意識の世界も無い)

無無明  亦無無明尽 

((空の中には)無明は無く、無明が尽きることも無い 注:無明とは根本的な無知のこと)

乃至無老死  亦無老死尽 

((空の中には)老死は無く、老死が尽きることも無い)

無苦集滅道 

((空の中には)苦集滅道(苦しみと幸せの原因 四聖諦 ししょうたい)も無い)

(途中省略) 

究竟涅槃 (涅槃の境地に至る)

 ほとんど無限の寿命を持つ群生型生物を乗せた岩の船は結局どうなったのか。これもいろいろな妄想が浮かんだのですが、最も劇的な妄想をご紹介します。

 遠い遠い未来、全ての星が燃え尽きた漆黒の闇の中でわずかに残る文明の痕跡を探し続けたの9隻の岩の船は何百回目かの集合を行いブリッジでお互いを結んで一体化した。彼らを送り出した超文明もすでに消滅していた。そこで彼らは最後の任務を行うことにした。彼らは重力波を集中して臨界に達するまで時空を揺らしビッグバンを作り出した。岩の船は消滅した。彼らの長い長い旅はようやく終わったのだ。そして新しい宇宙が生まれ、膨張を開始した。この宇宙が生命を、文明を育むかどうかはまだわからない。

 

 草取りしながらの妄想から始まったこの話も、ついに時の終わりまで来てしまいました。とりあえずこれでおしまい。