第7回 畝を立てる方角は東西か南北か。野菜の話

 「火をおこすこと」とか「車輪とベアリング」を思いついた人は人類の文明の進歩に大きく貢献したと思います。それらに加えて、とても地味ですが「畝を立てること」を思いついた人もすごいと思います。

 おそらく最初の農耕は平らなところへ種を蒔き土をかぶせる作業から始まったのでしょう。畝を立てるとと明らかに植物の生育が良くなりますが、それを発見したことはすごいと思います。なぜなら、結果がすぐにはわからないからです。何週間か何か月かたった後に、畝を立てた場合と立てなかった場合を比較して初めて効果がわかります。これを発見するにはかなりの観察力が必要です。

 さて畝を立てると植物の生育が良くなる理由は排水性と日当たりです。園芸の本にはよく「排水の良い土地を選ぶ」とか「排水の良い土壌に植える」などの表現が出てきます。植物は水が足りなくなると根を伸ばす性質があるので、乾いた方が生育が良い場合があるのです。「日照りに不作なし」ということわざがあります。もちろん、水不足で枯れてしまう場所もあるでしょうが、水利の良い場所の収量が上がるので全体では豊作になることが多いという意味です。2点目の日当たりの効果は言うまでもありません。そこで表題の質問ですが、畝の方角は東西がいいか南北がいいかおわかりでしょうか?シンプルに日当たりの問題なので数学的に証明できそうですが、受験以来数学には縁がないので現実論で言うと答えは「どちらでも良い」です。(数学的に違う結果が出ると困る。)おそらく地域によって流儀があるように思われますが、皆様の地域では畝はどの方向を向いているでしょうか。

 鍬だけできれいに畝を立てるのは結構難しい。どうしても曲がってしまいます。

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 上の状態から1か月くらいたつと収穫できる状態になります。9月下旬に種まきしています。この時期は害虫が少ないので殺虫剤を使わなくてもなんとか収穫できます。

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 種まきから収穫期までに2回間引きしています。せっかく発芽した生き物を抜いてしまうので少し切ないですが、やらないとちゃんとした野菜はできません。「間引きできない症候群」の方が時々おられて、ジャングルのような畑を作っています。たぶん心優しい方だと思います。

 細かいノウハウを一つ。発芽時の野菜苗は小さいので間引きの時に隣の苗まで一緒に抜けてしまうとか、指先が不器用なので何本も一緒に抜いてしまうとか、苦労します。ハサミで子葉を切り落とせばよいのです。鼻毛ハサミが便利です。以下に私の野菜栽培カレンダーをお示しします。例年であれば無農薬で出来ます。

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 3月21日(春分の日)のカラシナです。ナバナのように食べることができます。この時期はまだ害虫がいませんので葉もきれいです。しかし、もうモンシロチョウが来て卵を産む動きをしていました。

 

    無農薬農法、減農薬農法についてもう少しご説明します。
 農薬が使われるようになったのは第2次大戦後です。戦前は農薬が無かったのです。つまり、無農薬農法をやるならばまず戦前の農業を習うところから始めればよいのです。例えば昔は白菜は冬に、キュウリは夏にしかありませんでした。それが「旬」です。白菜を「旬」ではない夏に作ろうとすれば害虫との壮烈な戦いに勝たなければなりません。キュウリを冬に作ろうとすれば、まず霜から守らなければなりませんし、べと病やうどんこ病をなんとかしないと枯れてしまいます。つまり農薬を使わないと収穫できないのです。今でも旬とそれ以外の季節では野菜に使用する農薬の量は全く違います。しかし、白菜もキュウリもスーパーに行けば一年中売っています。なぜなら消費者がそれを求めるからです。この状況が当たり前になってしまって「旬」を知らない人が多いのではないでしょうか。「旬」は常識になるべき知識だと思います。農薬の使用を少なくする方法は農業の基本中の基本である「作物を旬に作ること」と次に述べる「連作を避けること」を原則とすることです。

 「連作を避けること」つまり同じ土地に同じ作物を続けて作ってはいけないことの理由は、連作すると必ず病害虫が増えることにあります。特に厄介なのは目に見えない土壌中の菌や線虫です。連作すると収量が落ちる現象を「連作障害」と言います。ところで水稲には例外的に連作障害がありません。日本人は山地が多く平野が少ないこの国土で生きるために最適な作物を選択したことになります。ちなみに陸稲には連作障害があります。農業現場は「地域特産物」のブランド化を目標としている場合が多い。これに成功すれば高価格で安定した収入が得られます。ところが「地域特産物」とはその地域で連作を行っていることに他なりません。連作を可能とするために膨大な量の土壌殺菌剤、線虫剤を使用して土壌中の病害虫を防除しています。しかし、地域特産物は高品質の農産物を安定して得られるという意味で農家だけでなく流通業者も消費者も望んでいることですので今後も増え続けるでしょう。農業は産業ですから売れるものを作るのが当たり前です。だから地域特産物のブランド化を目標とするのは当然のことです。

 もう一つ厄介なのが消費者が見た目の美しさで農産物を選ぶ傾向があることです。「ミナミキイロアザミウマ」という害虫がいます。とても小さな虫でキュウリやナスの果実が小さい頃に表面をかじって傷をつけます。傷がついた果実はかさぶたがついた状態で大きくなりますので見た目が悪くなり、日本では商品価値がなくなります。この虫は東南アジア原産の侵入害虫です。ところが東南アジアでは害虫として問題にされていません。なぜなら「見た目」が悪くなるだけで「中味」は食べられるからです。このように見た目が悪くなる病害虫について「Cosmetic Pest」と言う英語があります。日本語は無いようです。野菜だけでなく果樹も「見た目」を守るために膨大な農薬が使われています。「見た目」が良いといい値がつくから当然です。しかし、私自身でもきれいな方を買うでしょうね。

 誤解して頂くと困りますが、私は無農薬信者でも有機農法信者でもありません。時々「天然物は安全」と主張する方がおられますが、とても非科学的です。農薬は「虫を殺す」「草を枯らす」ので「人間にも悪影響があるに違いない」とバイアスのかかった見方をされますが、「天然物なら安全」も同様にバイアスです。農薬は使用基準を守る、つまりラベルに書いてある通りに使用する限り安全です。なぜならラベルに書いてある通りに使うならば、人間には危険量の農薬は摂取されないからです。逆に言えば「ラベルに書いてないこと」に使用してはいけません。例には出しませんが、「飲んだら危険」「触ったら危険」な製品は身の回りにはたくさんあります。繰り返しますが農薬はラベルの通りに注意して使えば安全です。気持ち的に農薬が少ない方がいいという感覚は理解できないでもありません。その場合は旬のものを食べることをお勧めします。(「地域特産物」を避けることは難しいでしょう。スーパーの野菜売り場にある野菜は事実上ほとんどが「地域特産物で、毎年同じ場所で同じ作物を収穫したものです。)

 これまで貯めこんできた私の持ちネタは出し尽くしました。今後は新ネタができ次第書いていきます。