2年前のブログの再放送 第3回 ファーストコンタクト 前編

第3回 ファーストコンタクト 前編

  
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    地球の周回軌道に乗った岩の船は人工衛星を次々に吸収し、地球のコンピューターをハッキングして1年かけて言語などの情報を吸収し、ついに宇宙ステーション(ISS)を吸収して地球人とのコンタクトを開始した。この時点でマルコ人(宇宙人)は英語を使うことができるようになっていた。彼らの提案は地球の文化を相当のレベルまで理解していることを示していた。彼らは交渉相手として国連を指定し、日本、ベルギー、シンガポールから窓口担当者を指名するように要請してきた。大国に囲まれた小国の出身者なら思考に柔軟性があり異文化コミュニケーションに慣れているはずだというのがこの3国を選んだ理由であったが、島国で異文化に慣れているとは言えない日本人を指名するなど、彼らの地球に対する認識は的外れなところがあり、任命された担当者はその後大変苦労することになる。生活のリズムも問題だった。マルコ人は6時間活動し3~4時間休むリズムだったので地球側は事実上不眠不休で対応することになった

 微生物への対応

 マルコ人は人類との接触に周到な準備を行った。このために交渉窓口の3人は様々な相談を受けることとなった。言語の次に課題となったのは微生物への対処だった。地球における最初の生物は単細胞の微生物であった。同様に他の惑星においても最初の生物は微生物のはずで、もし人類が他の惑星で生物に遭遇するすれば、それは宇宙人や大怪獣よりも微生物である可能性が高い。また、宇宙人たちも体内に微生物を抱えていることが考えられる。それら微生物に対する抵抗性を獲得しないうちに、その惑星の環境に生身をさらすことは非常に危険である。SFにあるようにUFOから宇宙人が降りてきて大統領と握手するなどということはやってはいけないのである。宇宙人は2種類の宇宙生物を地球に下ろし地球の微生物への抵抗性を確認する作業を行うことを人類に提案してきた。地球の生物学者たちは総力を挙げてこの課題に取り組むことになった。手順は以下の通りであった。
 宇宙生物はモッコとスラゴと名付けられた。モッコは体重4kgほどのウサギ位の大きさで毛に包まれていて足が6本ある。スラゴは体重3kgくらい足が8本あり外骨格と思われる殻に包まれていてサソリを丸くしたような外見をしている。両方とも雑食で有機物を摂取する。どちらも雌雄の区別がなく別の個体と接触すると増殖する。従って実験に必要なだけ繁殖させることが出来るが、各個体を隔離して飼育しないと際限なく繁殖する危険がある。これら生物は航行中は冷凍保存されていたと推測されたが、実は保存した遺伝情報から作り出されたクローンだった。これらに地球上の微生物を接触させ抵抗力をつけさせてワクチンを抜き取ろうとの計画だった。
 実験そのものは人類に任せられた。まずエサとして生の食材が次々に与えられた。宇宙生物はそれらを食べてすぐに病気になって2~3日動かなくなったがやがて回復した。乳製品、発酵製品を与えたり、飼育ケースに土壌を入れたり、宇宙生物は地球上の微生物にさらされつづけた。次の段階は病原性微生物やウイルスが与えられた。宇宙生物は何度も病気になり、そのたびに強靱な生命力で回復した。6ヶ月間の実験の後、地球の微生物に抵抗性を獲得した宇宙生物は宇宙人に返され、宇宙人はこれら宇宙生物からワクチンを絞りだした。もちろん、これら宇宙生物は地球の生物学者の興味の対象となり、何匹かは切り刻まれて研究された。当然ながら生物としてのメカニズム、遺伝とか呼吸とか知能など、は地球上の生物と似通っているが異なっていた。モッコとスラゴも生物としてのメカニズムが異なっており、おそらく別々の惑星で進化した生物であると推測された。
 地球人にとってもマルコ人が持っているであろう微生物は脅威だった。しかし、マルコ人は微生物を持っていなかった。人為的に除去されたと考えられた。ウイルスについては元々核酸塩基の組成が異なるので親和性が無く問題にならないはずと考えられた。それを実証するためにネズミやモルモット、サルなどが宇宙に打ち上げられ、岩の船の中で宇宙人たちに囲まれて飼育され、異常が無いことが確認された。これでようやく宇宙人は地球に降り立つことが出来る。

 

 ファーストコンタクト

 国連本部のヘリポートに宇宙人のボートがひらひらと舞い降りた。降りてきたのはノッコ6体、ガンギ5体、メロル1体で、ガンギ4体がメロルをお神輿のように担いでいた。彼らは宇宙ステーションに入って来た時と同様に全くためらわずにボートを下りさっさとエレベーターに乗り込んだ。(宇宙人の説明は前回の「群生型生物」を参照してください。)国連本部大会議場に各国大使全員がそろい宇宙人を迎えた。微生物の脅威は払拭されたはずだったが、用心のために会議場のメンバー及び国連職員の全員が宇宙服を着用していた。宇宙服が間に合わなかったメンバーは国連本部外に待避した。宇宙人は地球人の微生物に関する懸念を理解し、自分たちを調べて良いと許可した。早速身体検査が始まり、体液採取、CTスキャン、MRスキャンが行われた。この1回目の接触は単なる顔合わせと身体検査で終わった。微生物の懸念が払拭されるまで4ヶ月かかり、2回目の接触はそれまで延期された。その後、マルコ人は積極的に地球人との接触を開始した。 

 地球人もマルコ人のことを知りたがった。地球の文化としてはお互いを知るために会食が重要である。しかし、これはマルコ人相手の場合は全く不適当だった。彼らは一見すると口が無いように見える。彼らの口は外皮に隠されていて食料を取り込む時だけ開く。そして口から大小、長短、色とりどりの触手が無数に飛び出して食料をつかんで口に押し込む。食事の時間は極めて短時間である。食卓の上を多数の触手がうねうねとはい回る光景をまじかで見た地球人は度肝を抜かれ2度と会食しようとは思わなかった。しかし、地球の食事はマルコ人にとってとてもおいしかったらしい。彼らにとって食事は栄養を取るためのもので、食事を楽しむという感覚は初めてだった。マルコ人は記憶を共有する。1回の食事会で地球の料理はおいしいということをマルコ人全員が知ったことになる。窓口担当者はマルコ人からのレストラン予約に忙殺されることになった。やがてマルコ人と地球人は付き合い方を学習した。レストランはテーブルに料理を山盛りにしてコックも給仕も退避した。マルコ人は集団でやってきて1時間ほどの狂乱の宴の後、料理だけでなく冷蔵庫の食材も生ごみまできれいに無くなっていた。そして彼らは対価として金塊、銀塊を置いて立ち去った。その量は十分すぎるほどだったのでレストランから苦情が出ることはなかった。この食事会はとても頻繁に行われたので、金銀の市場価値が暴落することになった。

 

 次回もファーストコンタクトは続きます。